2004-07-01から1ヶ月間の記事一覧

旅への憧れ(その二) フロドとアシェンバハ

しかしフロドの中に厭世主義や一種のペシミズムを見ようとするのは少々行き過ぎかもしれない。改めて「旅の仲間」上巻を拾い読みしてみたが、そういったことをうかがわせる記述は特に見当たらないようだ。しかし、現在の安楽な生活を捨てて、旅に出てみたい…

旅への憧れ(その一) フロドに託されたもの

カーペンターの伝記にトールキンの母の死が若年のトールキンの性格形成に大きな影響を与えたことを説明してる次の文章がある。「…間違いなく、母の喪失は、彼の人格に深甚な影響を及ぼした。母の死は彼を一個のペシミストにしたのだ。 あるいは、むしろ、母…

LotR のラストシーン (その四)

ところでトールキンは最終的になぜこのエピローグをカットすることに決めたのだろうか。トールキンに影響を与えるのはバンダースナッチに影響を与えるくらい困難だとはC.Sルイスの言だが、「王の帰還」のタイプ原稿を読んだ何人かの友人(おそらく一番容赦…

LotR のラストシーン(その三)

前置きが長くなってしまったが、ラストシーンにそんな漠然とした疑問を個人的に抱いていたので、Sauron Defeated に収録されたLOTRのラストシーンの執筆過程-初期稿から始まって、最終的にカットされた「幻のエピローグ」の再録-は多大な興味を持って読んだ…

LotR のラストシーン(その二)

しかしラストシーンに私のような感想を抱く人はどうやらあまりいないようで、逆にあのサムの帰宅シーンと「帰っただよ」の台詞があってこその「指輪物語」であるというふうに考える方が大多数のようだった。特にあらためてリサーチしたわけではないので、た…

LotR のラストシーン(その一)

私は「指輪物語」を初めて読んで以来、サムの帰宅で終わるあのラストシーンに釈然としない感じを持っていた。フロドが「ボンバディルの家で見た夢の中でのように」「白い岸辺と、その先にはるかに続く緑の地を、たちまち昇る朝日の下に見た」ところで物語は…

W.H. オーデンの話(その二)

W.H. Auden A Biography by Humphery Carpenter ,George Allen & Unwin p379より以下訳出「…その後まもなく、彼(オーデン)は多くの人々がなんの文学的価値がないと考えたある本を絶大に支持することで批評家たちを戸惑わせた。すなわちトールキンのThe Lo…

W.H. オーデンの話(その一)

コリン・ウィルソンがトールキンについて書いた”TREE BY TOLKIEN" という小冊子がある。総ページ数47ページしかないこの小冊子はウィルソンがトールキンについて連想の赴くままに書いた軽い読み物という感じの本なのだが、冒頭面白いエピソードが紹介されて…

more than memory 〜思い出以上のもの (?)

(つづき)前回書いたようなことが印象に残っていたので、これに関係する台詞が映画の中に使われているのに気づいたときに、少し引っかかるものがありました。映画では前回引用させてもらったアラゴルンの辞世の挨拶の少し前、アラゴルンがアルウェンへ語る台…

more than memory 〜 思い出以上のもの(?)

「ガラドリエルの鏡と三艘の船」の記事に関していただいたコメントからの連想なのですが、トールキン世界における死ということからアラゴルンの辞世の言葉を思い出しました。その部分を引用させてもらうと "In sorrow we must go, but not in despair. Behol…

cellar door の謎

以前「ドニー・ダーコ」という映画を見ていたら、文学の教師役のドリュー・バリモアが黒板に書かれた cellar door という文字を見ながら、「ある言語学者が言うには、あらゆる言語の組み合わせの中で、cellar door という言葉がもっとも耳に快く響く組み合わ…

We have fought the long defeat.

先日七人の侍とLotR について書いてて、勘兵衛のもう一つ有名な台詞、 「今度もまた負け戦だったな」っていう呟きは、このガラドリエルの台詞、 We have fought the long defeat. に似てるなと思った。 指輪戦争は彼女にとって、初めから負け戦だったと言え…

人生は全面戦争の戦場だ。

"Life is total war, my firiend. Nobody has the right to be a conscientious objector."( 映画「あなただけ今晩は」 Irma La Douce より)和田誠「お楽しみはこれからだ」という映画の名台詞を集めた本があるけれど、映画に限らず、本などを読んでいて、…

七人の侍と指輪物語 

The Encyclopedia of Fantasy という1000ページもある(広辞苑と同じくらいの厚さ)超弩級のファンタジー事典がある。それをペラペラめくっていたら SEVEN SAMURAI という項目が目に入った。「七人の侍」がなぜファンタジー事典に?不思議に思って解説を読ん…

Annotated LotR !! 米版 50周年記念エディション(近刊)

1954年にFotRの初版が刊行されてから今年でちょうど50年目。米での初版の刊行が54年10/21だったのに合わせて今年の10/21にホートン・ミフリン社が50周年記念エディションを発売するらしい。The Lord of the Rings 50th Anniversary Edition http://www.hough…

P.J 映画に関するエッセイ集 (近刊)

この秋、原作研究者の立場から P.J 監督の映画(とその余波)について考察した論文集が出るようだ。Tolkien on Film: Essays on Peter Jackson’s The Lord of the Rings というタイトルで出版元はアメリカのインクリングス研究団体のMythopoeic Society 。紹…