トールキン随想

塔のある風景 エルフの三つの塔

「西境の先の塔山には、遠い遠い大昔のエルフの塔が三つ、今なお立っているのが望めた。それらははるけく月明に輝いた。一番高い塔が一番遠くにあり、緑の小山の上にぽつんと一つ立っていた。西四が一の庄のホビットたちによれば、その塔の頂きに立つと海が…

“many a year” vs. “many years”

エルロンドの会議の中のガンダルフの台詞。It was Radagast the Brown, who at one time dwelt at Rhosgobel, near the borders of Mirkwood. He is one of my order, but I had not seen him for many a year.この for many a year に引っかかった。なぜ、m…

フロドはケツアゴだった!?

ガンダルフがバタバーに説明したフロドの人相なんですが。「だがこの者は一部のホビットたちよりは背が高く、大部分のホビットたちより色が白い。また口と顎の間にくぼみがある。…」(文庫2 p147)この「口と顎の間のくぼみ」は原文では he has a cleft in h…

バルログは飛べたのか

今度の映画ではモリアでのオークとドワーフたちの戦いも遡って描かれているという噂なので、追補編の「ドゥリンの一族」を読み直していたら次の記述が目に止まった。 これ(バルログ)はサンゴロドリムから飛来し、西方の大軍の来襲以来ずっと地の底に隠れひ…

トールキン・ジグソー

「ビルボの別れの歌」のジグソーパズルをebay で落札。 前からポーリン・ベインズによるこの絵のポスターに憧れており、何度かebay で検索したりしていたのだが、以前ブログの記事に書いたベインズの原画を見かけたことがあるだけで、ポスターの形で売られて…

塔のある風景 エルフの三つの塔

「西境の先の塔山には、遠い遠い大昔のエルフの塔が三つ、今なお立っているのが望めた。それらははるけく月明に輝いた。一番高い塔が一番遠くにあり、緑の小山の上にぽつんと一つ立っていた。西四が一の庄のホビットたちによれば、その塔の頂きに立つと海が…

「追っかけ」と「敵中突破」

「黒澤明の作劇術」(古山敏幸)という本を読んでいたところ、「隠し砦の三悪人」について以下のような指摘があった。 「映画『隠し砦の三悪人』は、よく「おっかけ形式」の時代劇と言われる。黒澤本人がそう発言してるからだが、より正しくは敵中突破ものと…

オバマ演説でトールキンが下敷きに?

mythsocの投稿から。 オバマ大統領の施政方針演説で、トールキンが下敷きになっている箇所があるという記事が紹介されていた。http://www.huffingtonpost.com/aaron-zelinsky/obamas-rhetorical-inspira_b_169727.html大統領演説の問題の箇所。6) "But in my…

三人の「おくりびと」

米アカデミー賞の外国語映画賞部門に邦画の「おくりびと」がノミネートされているそうで、「おくりびと」の英語タイトルは "Departures" だとニュースでやっていた。この映画は未見なのだが、departure という単語で連想するのは、「ボロミアの死」の章タイ…

トールキン批評の過去と未来

"Tom Shippey's J.R.R. Tolkien: Author of the Century and a look back at Tolkien criticism since 1982."by Michael D. C. Drout and Hilary Wynne プリントアウトして、じっくりと、舐めるように読んだ。タイトルを見ると、シッピー著 Author of the Ce…

裂け谷の写真?

100円ショップ(ダイソー)で来年のカレンダーを見ていたら、世界の山の写真のものがあり、裂け谷の絵によく似た谷間の写真が載っていたので買ってきた。 トールキンがホビットの冒険のために描いた挿絵も構図は同じだけれど、このカレンダーの写真を見て…

優しい厳格

オークションに出ているトールキンの手紙が Tolkien Library で紹介されている。手書きの書面は達筆過ぎてまるで読めないので(笑、トランスクリプトを読む。”stern gentleness ”、ガンダルフの人格的魅力を端的に表していますね。これが子どもにとって、も…

偉大さとは何か

奥泉光が大岡昇平の『レイテ戦記』について書いている文章を読んで唸ってしまった。 『レイテ戦記』について書かれた文章でありながら、あたかも『指輪物語』について書かれた文章のように読めるのだ。「『レイテ戦記』は偉大な作品である。その偉大さは、た…

秋の観念

夜道を歩いているときに、涼しい風にのって、きんもくせいの香りがふと鼻先を掠める時期になると、C・Sルイスの「秋の観念」という言葉を思い出す。「ビアトリックス・ポターの『りすのナトキン』を読んだ時、似たような経験をした。わたしはポターが書い…

現身の人間としては…

「Blackwelder氏記念論文集」中のRichard C. West 氏による Her Choice Was Made and Her Doom Appointed - Tragedy and Devine Comedy in the Tale of Aragorn and Arwen を読んでいたら、ちょっと面白い仮説が紹介されていた。「指輪物語は総じていえば決…

選択の前と後―フロドの傷の深さ

滅びの罅裂でフロドが指輪の誘惑に屈する場面はLOTRリーダーズ・コンパニオンで3ページにも及ぶ長い注釈になっているが、そこでKatharyne Crabbeという人 の評論が引用されている。以下、その引用部分を私訳してみる。「(指輪の持つ)悪の潜行的性質は、ト…

塔のある風景 エルフの三つの塔

「西境の先の塔山には、遠い遠い大昔のエルフの塔が三つ、今なお立っているのが望めた。それらははるけく月明に輝いた。一番高い塔が一番遠くにあり、緑の小山の上にぽつんと一つ立っていた。西四が一の庄のホビットたちによれば、その塔の頂きに立つと海が…

LotR のラストシーン (その四)

ところでトールキンは最終的になぜこのエピローグをカットすることに決めたのだろうか。トールキンに影響を与えるのはバンダースナッチに影響を与えるくらい困難だとはC.Sルイスの言だが、「王の帰還」のタイプ原稿を読んだ何人かの友人(おそらく一番容赦…

LotR のラストシーン(その三)

前置きが長くなってしまったが、ラストシーンにそんな漠然とした疑問を個人的に抱いていたので、Sauron Defeated に収録されたLOTRのラストシーンの執筆過程-初期稿から始まって、最終的にカットされた「幻のエピローグ」の再録-は多大な興味を持って読んだ…

LotR のラストシーン(その二)

しかしラストシーンに私のような感想を抱く人はどうやらあまりいないようで、逆にあのサムの帰宅シーンと「帰っただよ」の台詞があってこその「指輪物語」であるというふうに考える方が大多数のようだった。特にあらためてリサーチしたわけではないので、た…

LotR のラストシーン(その一)

私は「指輪物語」を初めて読んで以来、サムの帰宅で終わるあのラストシーンに釈然としない感じを持っていた。フロドが「ボンバディルの家で見た夢の中でのように」「白い岸辺と、その先にはるかに続く緑の地を、たちまち昇る朝日の下に見た」ところで物語は…

more than memory 〜思い出以上のもの (?)

(つづき)前回書いたようなことが印象に残っていたので、これに関係する台詞が映画の中に使われているのに気づいたときに、少し引っかかるものがありました。映画では前回引用させてもらったアラゴルンの辞世の挨拶の少し前、アラゴルンがアルウェンへ語る台…

more than memory 〜 思い出以上のもの(?)

「ガラドリエルの鏡と三艘の船」の記事に関していただいたコメントからの連想なのですが、トールキン世界における死ということからアラゴルンの辞世の言葉を思い出しました。その部分を引用させてもらうと "In sorrow we must go, but not in despair. Behol…

cellar door の謎

以前「ドニー・ダーコ」という映画を見ていたら、文学の教師役のドリュー・バリモアが黒板に書かれた cellar door という文字を見ながら、「ある言語学者が言うには、あらゆる言語の組み合わせの中で、cellar door という言葉がもっとも耳に快く響く組み合わ…

七人の侍と指輪物語 

The Encyclopedia of Fantasy という1000ページもある(広辞苑と同じくらいの厚さ)超弩級のファンタジー事典がある。それをペラペラめくっていたら SEVEN SAMURAI という項目が目に入った。「七人の侍」がなぜファンタジー事典に?不思議に思って解説を読ん…

寺島ゴクリの原型

私のトールキン・コレクションはいちおう本の体裁をとっているものということに自らを戒めた結果、飾って愉しめるものはほとんど持っていないのですが、いくつか例外があって、そのうちの一つがポーリン・ベインズの描いた中つ国マップです。これ、アメリカ…