「山へ行く」

萩尾望都はほとんど読んだことないのだが、「山へ行く」という題名に惹かれて読んだ。

この作品で「山」が象徴しているものはなんだろう。
いや別に何かの象徴とかではなく、せわしない日常から脱して自然と一体になれる場所ってことでいいのかもしれないが、その「山」が何か自分にとって非常に本質的な、魂の故郷のようなところ、ある種の聖域として希求し目指しながらも、日々の「生活」に紛れてしまって、そこに辿り着くことがなかなか難しいという構図が、何か普遍的な問題意識のようなものとして胸に迫ってくる。

ゴドー待ちという言葉があり、ゴドーとは神だという説に従えば、ここでの話はゴドーに会いに行くつもりなのにせわしない生活に追われているうちに遂に死ぬまで行けなかった、ということになるだろうか。

しかし日常がどんなに忙しくて喧騒に紛れていても、微かな通奏低音のように消えることなく流れ続けている音楽のような、魂の故郷への指標としての「山」というヴィジョンがとても魅力的に感じた。
(もしこれが「山」ではなく「海へ行く」だったらかなりトールキン的だった)

山へ行く (flowers comicsシリーズここではない・どこか 1)

山へ行く (flowers comicsシリーズここではない・どこか 1)