W.H. オーデンの話(その二)

W.H. Auden A Biography by Humphery Carpenter ,George Allen & Unwin p379より以下訳出

「…その後まもなく、彼(オーデン)は多くの人々がなんの文学的価値がないと考えたある本を絶大に支持することで批評家たちを戸惑わせた。すなわちトールキンThe Lord of the Rings である。オーデンはすでに数年前、トールキンの最初に出版された物語であるThe Hobbit を読んでおり、今回はその新作の本をニューヨークタイムズの書評に書くために充分な時間を持てるよう、トールキンから三部作の三巻目の原稿を入手して、貪るように読んだ。(オーデンはすでにその一巻目の書評をニューヨークタイムズとエンカウンター誌に載せていた。)彼はオックスフォードで学生だった時分、トールキンの講義に出席していらい(注1)、トールキンとは会っておらず、トールキンとふたたび手紙のやり取りを再開した。
彼はトールキンに告げた。”The Lord of the Rings は、私がこれから一生何度も読み返していくであろう稀少な本の一冊です”
彼の書評はLOTRを探求物語の系譜の偉大な一冊として賞賛するもので、BBCの第三プログラムの放送の中で彼は宣言した。
”もし、この本を嫌う人間がいたなら、私は以後ふたたび、他のどんな本に関しても、その人の文学的判断を信用しない。”
この発言はトールキンを困惑させ、そのような文学的趣味のテストという考えに反対した。」(注2)

(注1:カーペンターの伝記にトールキンの講義に出席したさいのオーデンの回想が引用されている。「今まで、あなたに申し上げたことがないと思いますが、学生として、あなたの『ベオルフ』の吟唱を聞いたのは、いかに忘れ難い経験だったことでしょう。その声はガンダルフの声でした。」邦訳P159より)

(注2:このBBCの放送を聴いたトールキンはそのときの感想をレイナー・アンウィン宛ての手紙に次のように書いている。
「(他の批評家のコメントを批判した後で、)…私はまたオーデンもかなりひどいと思った。彼は貧しいリズム感覚しか持っておらず、なんにせよ詩文というものが読めていない。そして彼が(LOTRを)”文学的趣味を判断するテスト”云々と言ったことを嘆いた。どんな作品に対しても、だれもそんなことはできやしない。もし仮にできたとしても、そんなことは人を激怒させるだけだろう…(略)…しかしまあこういったことも本の売り上げには貢献してるとは思うが…(後略)」書簡集No.177より訳出)

W.H.Auden: A Biography

W.H.Auden: A Biography