Smith of Wootton Major : Extended Edition
最近すっかりブログから遠ざかってしまい、トールキン関連本のツン読もたまる一方なのだが、とりあえず先日購入した本書の感想でも。
ハモンド&スカル夫妻編集の同じような版型だった「農夫ジャイルズの冒険」が米版で$12くらいだったので、amazonで2694円の本書は少々値が張るなと思ったものの、届いた本書の内容を見ると、値段の元は取れるだけの内容が盛りだくさんで、すでに「かじや」の原書を持っていても、買っておいて損しない本だと思った。
(現在出ているのは版元がハーパーコリンズの英版しかなく、ホートンミフリン社の米版が出たらもっと安く手に入るのかもしれない。)
以下に本書の内容を書き記すと、
・「かじや」初版からのファクシミリ復刻。
・トールキン自身による「かじや」考察エッセイ
・物語の萌芽に関するキルビー教授宛メモ
・「かじや」執筆のきっかけになったG・マクドナルド「黄金の鍵」へのトールキンの序文(未完だがユーモアとアイロニーが綯い交ぜになった文章で面白い。物語を読む前に他人の書いた序文なんて読まんほうがいいって言ってます)
・「かじや」の事件年譜と登場人物関係リスト(トールキン自身による作成)
・物語のエンディングに関する考察
・「かじや」初期稿からの写し
・編者であるFlieger 教授による解題
といった具合。本書一冊を種本に「かじや」に関する論文でも書けそうなくらいの資料的な充実ぶりである。
なかでもトールキン本人による「かじや」の考察は小さい活字でびっしり18ページにおよぶエッセイで圧巻。自作の著者改題というよりも、HoMEや書簡集ですでにお馴染みの、自身が得たヴィジョンやFaerie界の消息を、あたかも歴史的な文書を解読分析するような、作品から独特の距離感を保ちながら解説するスタイルで、地名や人名の由来の細かい解説から、Faerie と人間との関わりに関する独自な思索などが展開されている。
物語で直接語られていないバックストーリー(とりわけ物語の初めに姿を消すMaster Cook の人物像など)も、例によって「ここまで考えてたのか」的に唸らされました。
他にも「かじや」とは直接関係ないトリビアで、C・S・ルイスとトールキン二人が関わる「妖精の靴」の逸話は印象深かった。トールキンのポケットに入っていた妖精の靴とは?
トールキン自身による「かじや」考察エッセイは、すでに一部が Flieger 教授の
”A Qestion of Time:J.R.R.Tolkien's Road to Faerie"に引用されていたが、それ以外の「かじや」関連の文章は全て本書が初出の由。トールキン自身による文章は何であれすべて手元に揃えようと思う向きはもちろん、トールキンが生前発表した最後のフィクションであり、中つ国神話とはまた違った独特のダークさと哀しみが漂う「かじや」のファンはマストバイですね。
- 作者: J.R.R. Tolkien,Verlyn Flieger
- 出版社/メーカー: HarperCollins Publishers Ltd
- 発売日: 2005/09/05
- メディア: ハードカバー
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- 作者: J.R.R.トールキン,ポーリン・ベインズ,猪熊葉子
- 出版社/メーカー: 評論社
- 発売日: 1991/04/23
- メディア: 新書
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- 作者: J. R. R. Tolkien
- 出版社/メーカー: HarperCollins Publishers Ltd
- 発売日: 1998/08/03
- メディア: ペーパーバック
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