トールキン・ジグソー
「ビルボの別れの歌」のジグソーパズルをebay で落札。
前からポーリン・ベインズによるこの絵のポスターに憧れており、何度かebay で検索したりしていたのだが、以前ブログの記事に書いたベインズの原画を見かけたことがあるだけで、ポスターの形で売られているのはまだ見たことがない。
今回このジグソー版が売りに出ているのを見つけ、とりあえず入札。
開始価格は20ドルで、自分以外にだれも入札しないまま、20ドルで落札できた。
アメリカからの送料に17ドル、計37ドルをPaypalで支払ったが、円高の恩恵で邦貨にして3187円也。
500ピースのパズルの組み立ては一日半かかって完成。詩の書いてある部分はサクサクできたが、入江の水面などは絵面的な取っ掛かりがまるでないので、ピースの凹凸から判断して組んでいくしかなく、基本的にジグソーパズルとして遊ぶのに適している絵かどうかは疑問。しかし好きな絵なので工程は苦ではなかった。
さらに額装するための額をさがす。ジグソーを額装するさい、500ピースなら500ピースに合ったフレームというのが規格品としてあることを知ったが、生産年代も生産国も違うからか、規格のものとはサイズが合わず、特別にオーダーする。
ネットで見つけたジグソー専門店で注文、4225円(額本体3700円+送料525円)かかる。パズル本体と合わせると、かかった費用総額は7412円也。
絵の色あいが淡いうえに、パズルのつなぎの線もあって、一見何が描かれているのかわかりづらいけれども、わかる人にはわかる、という感じが逆にまたいいのではないかと自己満足にふける。
実は「ホビットの冒険」の「荒地の国の地図ジグソー」というのも持っていて、ずいぶん前に一度組み立てて遊んで放置したままになっており、これの額装もしようと、額をオーダーする。こちらも近々アップする予定。
- 作者: J R R Tolkien,Pauline Baynes
- 出版社/メーカー: Red Fox Picture Books
- 発売日: 2012/10/25
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トールキンの魅力の一例
"the sense that the author knew more than he was telling, that behind his immediate story there was a coherent, consistent, deeply fascinating world of which he had no time [...] to speak." (Shippey)
著者は今語っていることの他にもより多くを知っているという印象、語られている物語の背後に、今は語る時間がないけれども、首尾一貫した、深く魅惑的な世界が広がっているという感じ…
The Road to Middle-earth: Revised and Expanded Edition
- 作者: Tom Shippey
- 出版社/メーカー: Mariner Books
- 発売日: 2003/06/24
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塔のある風景 エルフの三つの塔
「西境の先の塔山には、遠い遠い大昔のエルフの塔が三つ、今なお立っているのが望めた。それらははるけく月明に輝いた。
一番高い塔が一番遠くにあり、緑の小山の上にぽつんと一つ立っていた。西四が一の庄のホビットたちによれば、その塔の頂きに立つと海が見えるそうだった。しかしいまだかつてその塔に登ったホビットのあることは知られていない。」
これら三つのエルフの塔はホビット庄からはどんなふうに見えたのだろう。アルゴナスやオルサンクなどのヌメノール風巨大建築物件もかなりインパクトがあるけれど、それらは遠い山並みのはるか向こう側に存在し、ほとんど神話的領域に属しているが、このエルフの塔はホビット庄の生活空間に近いところに立っていて、西境のほうへ遠出をしたときには、丘陵地のてっぺんににょっきりと聳える姿が見えたはずだ。昔千住の辺にあったという「おばけ煙突」ではないけれど、丘の上に立つ三つの塔が夕日を背に長い影を落としていたり、月の光を浴びて浮かび上がっていたりするさまは幻想的かつシュールな光景であったに違いない。
昔の団地に付き物であった給水塔であるとか、高圧電線の鉄塔(q.v.「ジュンと秘密のともだち」)であるとか、塔状の物件というのは独特の存在感で風景にアクセントを加えるものだが、ホビット庄の田園風景と隣接しているこのエルフの塔のイメージが初読以来、頭の片隅に棲みついてしまっている。
(最近は地方へ出かけたおりなど、遠くの山の上に白亜の塔のような面妖な建物が建っているのが見えておやっと思いますが、たいていはどこかの宗教団体の建物だったりしますね)
「不意にかれは、自分がひらけた野原にいることを知りました。木が一本もありません。暗いヒースの野にいたのです。空気は嗅ぎ慣れない潮の匂いがしました。目を上に移したかれは、自分の前に高い白い塔が立っているのを見ました。
それは聳え立った山の背にぽつんと一つ立っていました。かれはその塔に上って海を見たいという強い望みに不意に襲われました。
かれは塔に向かって、山の背を登り始めました。しかしその時突然空を閃光が照らし、雷の音が聞こえました。」
フロドは堀窪の家でこの塔の夢を見る前に西境にあるエルフの塔を遠目からでも眺めたことがあったのだろうか。
HoMEの Making of LotR によれば、フロドの前身であるビンゴは一度だけエルフの塔を見たことがあると証言しているが、この設定がフロドにも当てはまるかどうかははっきりしない。
フロドの夢に出てくる塔は西境のエルフの塔の噂から自分でイメージした夢想の塔であったのかもしれないが、同時にまた一種の予知夢のような、神秘なビジョンが介入しているような雰囲気もある。
「シルマリルの物語」によると、この三つのエルフの塔はギル=ガラドが盟友エレンディルのために建造したものだという。エレンディルは北方王国にあった三つのパランティアのうちの一つを三つの塔の中でいちばん高く海寄りに立つエロスティリオンという名の塔に置き、この石は他のパランティアのように石同士の伝達のためには使えず、ただエレスセアを望見するために用いられた。エレンディルは故国喪失者であることに倦んだとき、この塔に上り、はるか西にあるエルフの島を石の中に覗き見て慰めを得たという。(この西方を見る石の力を "Straight Road"ならぬ "straight sight" と言ってるところが面白い。)
ところでこの石は指輪所持者たちが西方へ渡っていくとき、キアダンがエルロンドに渡して西方へ戻されたという。
石の所有権はアラゴルンにあるはずだのに、どうしてエルロンドが持っていくんだろうと不思議に思ったのだが、エルフの時代の終焉とともに、中つ国に残された西方との最後のパイプラインでもあるパランティアもまた取り除かれねばならないという、上からのそんな指令があったのかもしれない。
なだらかな丘陵地帯の西方に立っている三つの塔。そのいちばん高い塔に登ると海が見える。自分も海の見えない内陸に育ったせいもあるのか、内陸性の物語であるLotRの中でたまにその存在を垣間見させる海の描写には妙に心騒がすものがある。
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トールキン的な音楽(2)
前述のBratman氏のエッセイの中に、トールキンの好きな作曲家として、「魔弾の射手」のウェーバーの名前があがっていた。(情報元はトールキンへのインタビューで、ハモンド&スカル夫妻の Companion & Guide の Music の項に記載あり。)
それで思い出したのだが、以前「魔弾の射手」のDVD(下記リンクのDVD。舞台のライブ収録ではなく、映画仕立ての演出だった)を観ていたところ、第三幕で神に祈るアガーテの歌にこんな歌詞があった。
「たとえ雲が太陽を覆っても、その雲の向こうには永遠にお日様が輝いている」
これは暗雲に覆われたモルドールで、絶望的な夜にサムが口ずさむ歌、
「たとえこの身はここ旅路の果てに倒れて 暗闇の底に埋もれようとも…あらゆる陰の上空に、お日さまは上る。星々も永久に空にかかる。」と歌う場面に、スピリットにおいても、永遠をイメージする比喩においても、よく似ているけれど、これってトールキンが「魔弾の射手」にインスパイアされた可能性はないだろうか?
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トールキン的な音楽
先日届いた Middle-earth Minstrel: Essays on Music in Tolkien を読む。
最初にDavid Bratman 氏のエッセイから読み始める。エッセイの中心はトールキンにインスパイアされた曲や歌(メージャーどころでは、ヨハン・デ=メイやハワード・ショアからドナルド・スワンやトールキン・アンサンブルなど)を中心にした紹介&批評だが、これらトールキンの物語に触発された作品とは別に、クラシック音楽の作曲家で、聴いていてトールキン作品を連想させる作曲家(もしくは作品は?)という話題が面白い。アイヌリンダレを彷彿させるような合唱曲は何か?とか、LotRにふさわしいBGMは?等々、トールキンオタかつクラオタの人間が集まって話したら、いきおい議論百出しそうな話題だが、とりあげる音楽によって、その人がトールキンから受けた感銘の質が垣間見えるようで面白い。
トールキンと同じく北欧神話を題材にとったワーグナーやシベリウスの名前もあがるが、Bratman氏のオススメはエルガー、特に「エニグマ変奏曲」に、一種崇高な悲壮美からホビット的ユーモアまでの幅を持つトールキン的なドラマを感じるという。エルガーといえば「威風堂々」しか知らないので、エニグマ変奏曲、今度図書館でCDを借りてみよう。
Middle-earth Minstrel: Essays on Music in Tolkien
- 作者: Bradford Lee Eden
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「追っかけ」と「敵中突破」
「黒澤明の作劇術」(古山敏幸)という本を読んでいたところ、「隠し砦の三悪人」について以下のような指摘があった。
「映画『隠し砦の三悪人』は、よく「おっかけ形式」の時代劇と言われる。黒澤本人がそう発言してるからだが、より正しくは敵中突破ものと書くべきだろう。敵中深く身を隠しながら難関を突破して目的を遂げる―このジャンルには、娯楽映画では『ナバロンの要塞』(61)、シリアス・ドラマではカンボジア内戦を描いた『キリング・フィールド』(85)があり、『隠し砦の三悪人』は両者に及ばない。初めてこの映画を観た時、時代劇なのに、どうして全員がショートパンツを履いているんだろう、などと実に詰まらぬことばかり考えていたのを思い出す。」
ショートパンツ云々には思わず笑ってしまったが、そういえばバクシ版LotRのアラゴルンやボロミアも妙な短パン姿でしたな。
個人的には「ナバロンの要塞」や「キリング・フィールド」よりも「隠し砦」のほうが好きですが(*1)、そういう好悪は別として、これらの映画の魅力が「追っかけ」や「敵中突破」という物語構造に関わっているという著者の視点には深くうなずくものがあった。LotRもまた「旅の仲間」では「追っかけ形式」、モルドール潜入は「敵中突破もの」という、冒険活劇のパターンを踏んでおり、前の記事で「七人の侍」とLotRとの物語構造が似ているという指摘について書いたことがあったけれども、LotRは神話的要素やファンタジー要素とはまた別に、こういった冒険活劇もののパターンを幾重にも内包しているゆえに面白い、という見方もできるのではないだろうか。
黒澤明は「隠し砦」以前にも、脚本のみの参加で「敵中横断三百里」(山中峯太郎原作)、義経弁慶一行の敵中突破ものでもある「虎の尾を踏む男達」(*2)を監督しており、「隠し砦」はすでにやったパターンの焼き直し的に受け取られるふしもあったようだが、本書によれば、黒澤には「荒姫」という、構想だけで終わった敵中突破ものの企画もあったという。
「簡単に言えばジャンヌ・ダルクみたいな。原作は山本周五郎の『日本婦道記』の中にある中編小説だが(*3)、戦国時代、或る山城で籠城中の荒姫がヒロインでね。…味方の軍団ことごとく壊滅して、敵の重囲の中で老人、女、子供ばかりの城を護って戦い抜くっていう話だ。君(植草)の好きな原節ちゃんで、悲壮美を描きたいんだ」「残念だが、大合戦は無し。その代り、荒姫が城中に残っている少年たちを鍛錬して、十数騎、夜陰に乗じて、敵陣へ殺到するんだ。綺麗だぜ」―と熱っぽく語る。
うーん、圧倒的多勢と無勢の中、原節子率いる少年兵決死隊の敵陣突破、これは確かに面白そうだ。さながら角笛城から出陣するローハン軍+エオウィンの活躍が合体したようなヒロイックな映画になっていたかも。
*1)初めて「隠し砦の三悪人」を観たのはテレビ放映だったが(樋口監督のリメイク版は未見)、ところどころで台詞が聞き取れず、後年になって西村雄一郎「黒澤明 音と映像」を読んでいて、兵衛の台詞「天晴。将たる器…大事にせい!!」の「将たる」、雪姫の台詞「兵衛!!犬死は無用ッ!…志あらば続けッ!!」の「こころざし」を初めて理解し、「こんなかっちょいい台詞を言ってたのか」とかなりの時間差で感動した覚えがある。この辺の台詞はドラマ的に重要な台詞なので、これから初めて「隠し砦」を観るという方はDVDの日本語字幕をONにして観るのをお勧めします。
*2)初期の黒澤映画は未見のものも多く、「虎の尾を踏む男達」も最近やっと見た。原作は能(安宅)や歌舞伎(勧進帳)にもなっている義経一行の都落ち伝説で、これもまた神話的な魅力を兼ね備えている作品だった。LotRの中でも、とりわけ男が男に惚れる男気の美談?にグッと来る向きにはお薦めかも。(例えばファラミアが掌中にあったフロドを解放することと、関守の富樫の心意気には相通じるものがあると思った。)
*3)実は『日本婦道記』の中に「荒姫」という短編はなく、違う題名の短編から黒澤がイメージを膨らませていることが著者によって指摘されている。
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ジャケ買い
こんな本が出ているのを見つけた。
LotRをユング的に解釈する ―という試みが面白いかどうかはさておき(*)、ジャケの絵がいかにもサイコドラマふうというか、チャーミングさと気持ち悪さが同居している不思議な魅力につられ(*2)、注文してしまった。
* ユング派によるトールキン解釈は秋山さと子(「聖なる男女」)、河合隼雄(「物語とふしぎ」)を昔読んだはずなのだが、内容をさっぱり覚えていない。
洋書では、Individuated Hobbit: Jung, Tolkien and the Archetypes of Middle-earth というのがユング派的解釈による研究本のようだが未読。
*2 表紙の絵は著者自身によるものだった。(追記)
Where the Shadows Lie: A Jungian Interpretation of Tolkien's the Lord of the Rings
- 作者: Pia Skogemann
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