まざるぶるの書

前回の佳月さんの紹介にあるように、今度の50周年記念LotRではじめてLotRのテキスト中にマザルブルの書の挿絵が使われたわけですが、この文書の英訳は今度の本の中には見当たらないようだと佳月さんの報告にありました。
このマザルブルの書の「逐語訳」は Pictures by J.R.R.Tolkien にクリストファーが解読したものが掲載されております。(この画集はずっと絶版だったものが92年に新版が出ているようですが、私が持っている初版は何より画質が劣悪で、しかもほとんどの絵はJRR.Tolkien Artist $ Illustrator にずっと鮮明な印刷で収録されているので、クリストファーの解題ノート&扉ページにある教授のナイスな写真以外に価値はあまりなくなってしまいました。)



このクリストファーのノートはもともと1977年版のトールキンカレンダーにマザルブルの書の写真が使われたさい、図像解説としてカレンダーに掲載されたのが初出らしいのですが、古いトールキンカレンダーはコレクターズアイテムになっているので入手しにくいし、この解題を読むためだけにこの画集を購入するのも勿体ないので、来年出るというハモンド夫妻によるLOTR注釈本あたりで再録してもらえると理想的ですね。
☆(MERRY&PIPPIN様より2005年のトールキンカレンダーにこのクリストファーの解説が
収録されていると情報をいただきました)

さてこの古代文書、私は自分で解読する根性がないのでクリストファーの対訳をありがたく読んでるだけなのですが、解読するさいの注意点をみると基本的には追補篇のキアスとテングワール表で対応できるものの、多少変則的な使用があって、読みとくのはなかなか骨が折れそうです。

解読文を読む限り、記されてる内容はカザド=ドゥムの章でガンダルフが一行に読み聞かせている通りで、とりたてて目につく新情報はなさそうですが、モリアでの戦闘の過酷さを伝える染み付いた血痕や焼け焦げの跡のリアルさは、ビジュアルだけでもこれが物語の挿絵としてあった場合の効果は絶大です。(文書末尾の「今ヤカレラ至レリ」の書きなぐったような筆跡の禍々しさ。映画ではどうなってるかなと確認してみたところ、さすがそのままの筆跡でコピーされてました)
筆跡の違うキアスによる2枚のページ、エルフ文字を速く上手に書くのが得意だったというオーリの書いたページというふうに、解読するのにかなりの教養?が必要とされるというところにも言語オタであり古文書の研究者であった教授の凝り性がここぞとばかりに発揮されていて、そういうものが好きなタイプの人間にはこたえられないのではないでしょうか。

LOTRには今までにも多くの豪華愛蔵版があるにもかかわらず今回の新版までこの書の挿絵が一度も使われなかったことが不思議なくらいですが、そのうち邦訳版でもいつかこの書の挿絵を入れた愛蔵版が出てくれるといいですね。


まざるぶるの書(Pictures by JRR TOLKIEN より)

Pictures by J.R.R.Tolkien はMERRY&PIPPIN さんのブログでも紹介されています。