J.R.R.TOLKIEN Artist & Illustrator を読む(1)

トールキンによる『指輪物語』の図像世界」の原書です。収録されている絵は「指輪」〜中つ国関連だけでなく、アマチュア画家としてのトールキンの風景画やスケッチ類、ブリスさんやローバーなどの挿絵、エルフの紋章やカリグラフィーの章まで設けられ、トールキンの多彩な才能に唸らされることしきり。そして本文の詳細な解説を読むと、トールキンのいわゆる「準創造」の過程というものが、必ずしも言語学的インスピレーションだけでなく、ある種の幻視的ビジョンをも伴った創造だったことがわかってきて、眺めて愉しいだけではなく、中つ国創造の秘密をも垣間見られるという、とにかくトールキンファンならマスト・バイの一冊です。

本書を読んで、長年個人的に抱いていた疑問?が氷解したことがあったので、ちょっとそれについて書いておきます。
私はAllen & Unwin 版のLotRのハードカバーを持っているんですが、そのカバーはサウロンの目を中心にあしらい、その目の上に一個の指輪が逆さまに浮かんでいるという図柄でした。これを見て一つの指輪には宝石はついていないのに、この指輪はなんだろうかって思ったんですね。でも、カバーとかのデザインはどうせ出版社が適当に処理したものだろうと思ってそれ以上深くは考えなかった。ところがやはり束教授のやっていることに無意味なものはなく(笑、この図柄の背景にはちゃんとした意味があった…。


本書にトールキン自らがデザインしたジャケットのデザインが掲載されていて、もともと指輪は三つ描かれていたことを知りました。三つの指輪といえばエルフの指輪、本書を読んで不覚にもはじめて気づいたのですが、一つの指輪はサウロンの目を囲んでいるオレンジ色の輪でした。本書に詳しく説明されているように、サウロンの目と一つの指輪を包囲するように配置された三つの指輪、ネンヤ、ヴィルヤ、ナルヤがあり、とりわけサウロンの最大の好敵手であったガンダルフの持つナルヤがサウロンの目に挑むように上方から接近して、指輪に刻印されているテングワール文字が戦闘を象徴するかのごとく、火のように燃え上がっている…

この説明を読んで、まさに目からウロコ。実際に使われたジャケットのデザインからなぜ他の二つの指輪が消えてしまったのか詳しい事情はわかりませんが、このオリジナルデザインはまさしくThe Lord of the Rings という総タイトルにふさわしく、この通りにデザインされなかったのは惜しいと思ったものでした。

J.R.R. Tolkien: Artist and Illustrator

J.R.R. Tolkien: Artist and Illustrator

トールキンによる『指輪物語』の図像世界(イメージ)

トールキンによる『指輪物語』の図像世界(イメージ)