トールキンとシェイクスピア

今年、こんな本の出版が予定されているらしい。

トールキンへのシェイクスピアの影響(というより反発か)は、マクベスに出てくる予言「女の産み落とした者」とエオウィン「人間の男の手によっては」の類似、同じくマクベスの「バーナムの森が動かぬ限り」という予言の成就の仕方に不満だったトールキンが実際に動く森を登場させたことは有名だ。

トールキンはことあるごとにシェイクスピアへの嫌悪を述べているにも関わらず、実はかなり「意識している」ということはたしかシッピィ先生も指摘していたけれども、本書ではその影響関係をテーマや題材、言葉使いといった点にまで踏み込んだ考察がなされているようだ。とりわけ内容紹介にある、
to uncover Shakespeare’s influence on Tolkien through echoes of the playwright’s themes and even word choices, discovering how Tolkien used, revised, updated, “corrected,” and otherwise held an ongoing dialogue with Shakespeare’s works. という部分に注目したい。例えばトールキンLotRを推敲していく作業で、単語の選択や語法といった点でシェイクスピアを意識して手直しをした箇所が推測できるのだろうか。

私のシェイクスピア体験は、せいぜい映画化されたものを見たくらいで、実際の舞台はおろか、戯曲の翻訳すらちゃんと読んだことはないのだが、ドラマの文脈から独立して普遍的な格言としても成り立つようなシェイクスピアの台詞と、トールキンの登場人物たちのウィットに富んだ台詞の応酬や、テンションの高い状態で吐かれる台詞の文語的な格調の高さに、ある種の類似を感じるように思うことがあった。じっさいトールキンを再読する喜びの一つは、こういったところどころに鏤められた名台詞を味読することにもあり、それはもしかたら戯曲を読む愉しみに通じるものがあるのかもしれない。
本書がそのような印象について何か裏付けになるような分析をしてくれているかどうかわからないけれども、一応今年の購読リストに入れておこう。

※「トールキン百科」にもシェイクスピアの項目があり、見てみると、項目執筆者は本書の編者であるCroft だった。(Croftさんは記事の中でちゃっかり今度の本の宣伝もしていた。)この記事を読むと、なるほどいくつかの点でトールキンシェイクスピアの因縁が深いことがわかるが、一冊の本が出せるほどのネタがあるのかという疑問を感じないでもない。

Tolkien And Shakespeare: Essays on Shared Themes And Language (Critical Explorations in Science Fiction and Fantasy)

Tolkien And Shakespeare: Essays on Shared Themes And Language (Critical Explorations in Science Fiction and Fantasy)