J.R.R. Tolkien Encyclopedia

Companion&Guide のReader's Guide のテーマ別項目を抜き出していて、同じようなトールキン事典の印象であるJ.R.R. Tolkien Encyclopedia: Scholarship and Critical Assessment のほうの項目はどういうテーマを扱っているのだろうと気になっていた。だいたい思いつきそうな主要テーマというのは限られているはずだから、思いっきりかぶってるのじゃないかしらん。しかも運悪く、ハモンド夫妻のC&Gとほぼ同時期に出版されたので、同じようなレフェレンス本で、しかもとんでもなく高価、ということで、ほとんど黙殺の憂き目にあっているような印象すらある。(そもそも書評がほとんど見当たらない。(※1)
とりあえず検索してみたところ、版元のHPに詳しい内容見本が掲載されていた。

これのThematic Entries を見ると、たしかにReader's Guideの項目とかぶるものもあるが、こちらの
事典独自の編集方針(※2)によるエントリーがかなりあるようだ。とりわけ、
Objects in Tolkien's Work Middle-earth,
Creatures and Peoples of Characters in Tolkien's Work
Places in Tolkien's Work などで、フォスターのThe Complete Guide to Middle-earth があれば、これは誰だったっけという疑問を持ったときに引くにはじゅうぶんであり(しかも簡便)、こういう事典でそういう項目を設けても意味はないはずだがと不思議に思ったのだが、編集主幹であるDroutの序文を読んでみたところ、この事典では物語「内」でどういう人、場所、物かという説明の他に、物語「外」への言及、つまりそれらのキャラクターや呪物的な物などの祖型やルーツなどといった、いわゆる元ネタ探し的なアプローチがされているということである。(こういう薀蓄は物語に浸るためには逆に邪魔になることもあるが、ヒマなときにサイドリーダーとして読むぶんには面白いし、蒙を啓かれるとは思う。)

Themes in Tolkien's Work の項目を見ると、War とかPossessiveness とか Eucatastrope など、C&G とかぶるものもあるが、こちらの事典ではそういった観念的なテーマ以外に、
Caves and Mines、Doors and Gates、Towers などといったトポグラフィックな括りがあったりするところが面白い。
(しかしExistentialism って何だろうか。先日ボーヴォワールの文章について触れたけれども、トールキン実存主義の影響でもあるのだろうか。なんか激しく読んでみたいぞ)

寄稿者一覧を見ると、Tolkien Studies の編集顧問やレギュラー執筆人はすべてこの事典に寄稿しているようで、Tolkien Studies 誌のメンバーの総力を結集して作った事典という感じがある。そこから推察するに、相当アカデミックかつ硬派な事典になっていることは確かであり、古英語や中世文学などに関する専門的な記事は読みこなすのにそうとう骨が折れそうだ。
しかしまあハモンド夫妻のC&Gと同じく、10年に一度出るかどうかの記念碑的関連本であることは間違いないようで、「トールキン関連本を読む」などという看板を掲げている以上、これはやはりオレが買わねばならん・・という無駄な使命感のようなものがふつふつと湧いてきた。

アマゾンJPのページは見るたびに値段が変動しており、上は26000円から下は23000円の間を行ったりきたりしている。なにはともあれ法外な値段であり、これがせめて15000円くらいだったら・・と恨めしいような気持ちで眺めていたのだが、ある方法(※3)でかなり安く入手できることを発見し、結局注文してしまった。(つづく)

※1 アマゾンUSのカスタマーレビューに投稿している二人が自らが事典の寄稿者であることを明かしながら、「無闇に高いけど、いい内容だから・・」と訴えてるのが、関係者以外誰も買っていない実情を表しているようでおかしい。(まあこの値段ではかなりハードなマニアでもやはり二の足を踏むでしょう。)

※2 Drout の序文からの引用。
This encyclopedia is intended to be valuable to as many as possible of the varied and interconnected communities and individuals who are interested in Tolkien.
Its contents are meant to bridge gaps and bring together separate branches of knowledge. Even within the specialization of Tolkien scholarship there is a significant divide between (to use John Ellison and Patricia Reynolds' terminology) "Tolkien Studies"-scholarship about Tolkien the author and his works of literature-and "Middle-earth Studies"-analysis of Tolkien's invented worlds, histories, languages, creatures, etc.(・・・)
Thus this encyclopedia seeks to be in both camps at once, drawing connections between the inside and the outside, showing how each type of study enriches the other.

要は、トールキン研究(学者としてのトールキンとそのバックボーン)+ミドルアース研究(創造された世界内の研究)という、切り離されがちな二つの領域の合体を目指すということのようだ。たしかに今はインターネットのおかげでミドルアースの歴史・地理・人名などの総合的な知識は半端な専門家をはるかに超えた精度と深さで研究が進んでおり、もはや書物という形でわざわざ情報を提供する必要がない状態にまでいっている気がするが、これらはあくまで「物語内」知識に留まるものではあり、そこにトールキン研究という「外部」知識を組み合わせたら、より深くトールキン世界を理解できるようになる・・・のかもしれない。

※3 バーンズ&ノーブルでメンバー会員になり(これに25ドルかかる)、メンバー割引になると、140ドルで買えることを発見、さらにPaypal 経由で支払うと5%引きのクーポンが使えるという手はずだったのだが、予想外の恩恵として、新規メンバーへの15%引きクーポンというのがメールで送られてきて、最初にした注文をキャンセルし、あらためて15%引きのクーポンを使う形で再注文する、という手順を踏むことで、本自体の値段は113.75ドルまで下げることができたのだった。 送料と手数料に$12.98、B&Nメンバー登録料の25ドルを合わせると、〆て18000円の買い物となる。これでも決して安い買い物とは云えないが、定価を考えればまあこの辺で満足すべきだろう。
(新規会員メンバーへの15%引きのクーポンがあるということを知らなかったので、最初に注文したさいのPaypal 割引は最初の注文をキャンセルした時点で失効してしまい、これは二度は使えないので5%の割引は無効になってしまったのだが、まず、本は買わないでメンバー会員にだけなり、新規メンバー特典のクーポンコードがメールで送られてきた後に、15%割引+Paypal 5%割引を使えば、さらに安く入手できたのかもしれない。)