The J.R.R. Tolkien Companion and Guide

Companion & Guide がようやく到着。
洗練されたデザインの箱に、持ち重りする大判の本が二巻、本箱の上に置いてしばらくその偉容を
ホレボレと眺めてしまう。
イラストや写真一切無しの活字のみ、総ページ数は二巻合わせて2300ページあるそうで、なんというか、読む前からハモンド&スカル夫妻のビブリオマニア臭がプンプンと漂っており、それがたまらない魅力である。

なんだか眺めているだけで満足してしまいそうだが、とりあえず中身を拝見・・とページをめくって驚いたのはChronologyの巻。
注文する前から漠然と、伝記的な資料らしいChronology より、項目別の事典になっているReader's Guide のほうを参照することが多いだろうと思い、Chronologyの内容がどういうものか大して想像もしていなかったのだが、Chronology は文字通りのChronology だった。
トールキンの人生の軌跡をほとんど日録レベルでひたすら年代順に並べてある。つまり何年の何月何日にトールキンが何をしていたか、書簡や原稿にある日付けなどからわかる範囲で推測し、トールキンの生涯を日付レベルで詳細に追える仕掛けになっているのだ。
(まだ電話があまり普及しておらず、近況報告から事務上のやりとりまで、全て手紙でやり取りされていた時代の人だからこそそれもある程度可能だったわけで、晩年になってトールキンが電話も使うようになってからはそれも困難になった由。)

序文によれば、day to day の日録は(仮にそれが可能であっとしても)目指しておらず、執筆活動や、何らかの伝記的興味を惹くエピソードのある日付をチョイスするという方針をとったということらしいが、パラパラと眺めた限りでは、かなりの範囲にわたって日にち単位でトールキンの動向をフォローできる限りフォローしている、という印象。
ちょっと呆気にとられた。凄い資料であることは間違いないが、しかしこれ、どういう読み方をしたらいいのか、ちょっと途方に暮れたりもして。(※4)

Reader's Guide はWho's Who形式の人名、ゆかりの土地、キーワード(テーマや重要概念)などを項目別に並べている。もともとこの本の企画はフーパーのC. S. Lewis: A Companion & Guideにならって、そのトールキン版を作るという発想から始まったそうで、なるほど見出し語の項目設定とかよく似ている。フーパーの本がA Companionと遠慮がちなのに対し、こちらはThe Companion と銘打っているところに、決定版を作るという夫妻の力の入りようが伺えるというものか。

いくつか見出し項目(※1、2)を拾い読みしてみたが、未発表書簡や過去のファンジンの記事などから丹念に収集してきた情報も盛りだくさんで、これは必要なときに参照するだけでなく、興味深そうな項目(※3)ごとに、じっくり読んでみたい。

とにかく超人的な労作であり、夫妻はトールキン本のコレクターから出発して、ついにトールキンという人間に関する全情報の蒐集家に到達した感がある。Chronology の日録的記録という途方もない試みも、トールキンの断簡零墨に至るまですべてを蒐め、読み、整理する、その精神から発しているのだろう。
コレクター魂、ここに極まれり。

※1 気づいた難点を一つ。インデックスは Chronology と Reader's Guide の項目を一まとめにしてそれぞれの巻末に纏められているのだが、人名なり作品名なり、ある項目の見出し記事を探そうとするとき、アルファベット順で本文のページをめくるよりも、索引からページの見当をつけて、そのページ番号で開いたほうが見出しを見つけやすいと思って索引を調べたところ、見出し項目のあるページが特にイタリックやゴシック太字になっておらず(フーパーの本ではそこはしっかりゴシックになっている)、該当する単語が現れる本文ページが全て同じ字体&ポイントで書いてあるので、どのページが見出しのあるページなのかわからないのが困った。これは再版するときに(といってもそうそう買い換えるわけにはいかないが)ぜひ改善してほしい部分だと思う。

※2 夫妻のHPに見出し項目の見本がアップされており、そこには見出し語のみのページナンバーが記されている。http://www.bcn.net/~whammond/Guide%20topic%20list.doc
私はこれをプリントアウトして、見出し項目一覧および見出し項目ページの早見表として使わせてもらうことにした。

※3 ちょっと目を惹いたものだけでも「ディズニースタジオ」「偏見と人種差別」「宗教」などトピカルなものから、「食べものと飲みもの」「読書」「音楽」「健康」「スポーツ」「喫煙」など、ミーハー的な括りも面白そうだ。

※4 多少まとめて読んでみると、最初に恐れたほど無味乾燥な記述がえんえん続いてるわけではなさそうだ。神は細部に宿るというか、随所にピカッと光る美味しい逸話が紛れ込んでいる。これはカーペンターの二冊の伝記(A Biography/The Inklings)や、書簡集を読んでもなお飽き足らないタイプの人間が一度は「通読」を試みるべき書なのかもしれない。

J. R. R. Tolkien: the Companion and Guide: Chronology

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J.R.R. Tolkien: the Companion and Guide: Reader's Guide

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The J.R.R. Tolkien Companion and Guide [BOX SET]

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