Tolkien Studies 他

Companion & Guide 、到着がやけに遅いなと思ってアマゾンUKのアカウントを調べたら、なんと、どこかの地点でUターンしてしまっていたらしく、発送元に送り返されていた。その旨、アマゾンからはメールで知らせてきていたのだが、その連絡メールはプロバイダーのスパム駆除用のジャンクボックスに入ってしまっており、私はそうとは知らずに来るはずのない本を無駄に待っていたという。
本が到着せずに戻ってしまった原因は結局不明のまま、アマゾンからは送料と手数料はきっちり差し引かれて本代だけがキャッシュバックされており、長らく愉しみに待っていた本は届かない上、自分の関知しない理由で返却されたのに送料まで取られるなんてあんまりだと拙い英語でねじ込んだところ、ようやく全額返却の返事をもらえた。
まったく踏んだり蹴ったりである。懲りずに再注文したけれど、無事到着しても結局腰を据えて読むには年末年始の休みまで待つことになりそうだ。

そんなこんなで意気消沈していたところ、アマゾンUSのほうに注文していたTolkien Studies ?が届いた。
このシリーズはかなり値がはるのでいつも買うのを躊躇するのだが、硬派な論文をあっさりと並べただけだった?に比べ、?では鬼のように充実した書評欄を中心に読みどころが多く、この路線で行ってくれるならばと、今年も注文していた。

肝心の論文集のほうはおいおい読ませてもらうとして、今回も?に引き続き、書評欄の充実ぶりが凄い。様々なレビュアーがおもだったトールキン関連書を一冊づつとりあげてじっくり書評している部分だけでも読みごたえ十分だが、当ブログでも何度か引用させてもらっているDavid Bratman氏が一年の間に出版されたトールキン関連本を総括する形で簡潔な書評を数十ページに渉って書いており、これを読むと、この一年間にどんな関連本が出たのか詳しくわかるようになっている(年刊ペースゆえ、多少のタイムラグはあるが)。しかも書籍以外の雑誌掲載論文や、はてはDVD(映画ではなく、トールキンの紹介ビデオのようなもの)まで網羅しており、よくもまあ一人でこれだけのものに目を通せるなと唖然とする。ご自身は大学図書館の司書をしているとのことなので、文献資料の入手には事欠かないのだろうけれど、トールキンに関するものは全て目を通さずにはおかないという勢いで、その情熱に打たれます。

このTolkien Studies 誌は基本的に募集論文を編集委員が審査をして掲載が決まった(こういうのを refereed journal というらしい)書き下ろし論文が数編(ほとんど何らかの専門を持つ大学人が書いているのでやたらアカデミック)と、書評欄との二本柱で行く編集方針のようで(それ以外にも Notes and Documents という、研究者がちょっとしたトリビア的発見を書くようなミニコーナーもある)、とりあえずこのシリーズを読んでいたら、「トールキン研究(あくまでもアカデミックな)の最前線」とでも云うべきものを望見できるのではないかと思う。

これで値段をもう少し安くしてくれたらいうことはないのだが、こういう学術書の体裁を取ったものは部数的に売れず高くならざるをえないのだろう(参考文献として図書館などで長く読み継がれることを想定してか、造本もやたら立派だし。)なに、書評欄のおかげで、読んでみたい本と、自分には必要のなさそうな本がわかり、結果、自分にはいらないタイプの本を買わずに済むことでおつりが来るわい、と苦しい理屈をつけてみたりして。

関連本の新刊に関しては自分でも時たまアマゾンなどでチェックはしてるのだが、Lord of the Rings やMiddle-earth と入力するのがめんどうなので、Tolkien で検索することが多く、それでヒットしない本はほとんど漏れてしまっており、存在すら知らなかった本がけっこうある。
今回の書評欄を見てその存在を知り、注文したのは、The Power of the Ring: The Spiritual Vision Behind the Lord of the Rings by Stratford Caldecott という本。

The Power of the Ring: The Spiritual Vision Behind the Lord of the Rings

The Power of the Ring: The Spiritual Vision Behind the Lord of the Rings

アマゾンUSでの紹介文にはThe Power of the Ring is the first book to show how Catholic themes of quest, devotion, and forgiveness are, as Tolkien said, at the very heart of The Lord of the Rings trilogy. とある。
トールキン作品におけるカトリック要素を考察した本は私の知ってる範囲でもすでにTolkien: Man and Myth by Joseph Pearce や、同じくPearce 編集によるカトリック系ライターのエッセイを集めた、Tolkien A Cerebration、他にも初版は20年くらい前の古い本だが、最近復刊されたJ.R.R. Tolkien: Myth, Morality, and Religion by Richard L. Purtill などがあり、「このテーマの最初の本」というのは間違いなのだが、Bratman氏 の書評によると、Caldecott氏による本書ではHoMe収録の諸篇、とりわけ Athrabeth Finrod ah Andrethの考察まで含まれているらしく、Athrabethは結局トールキンの生前には公けにはされなかったものの(つまり「正典」ではなく、あくまでも「外典」扱いだが)、この作品でトールキンはもろにキリスト教(人類の堕落と原罪、キリストの到来)と自身の神話の接続を模索するという、かつてない大胆な試みをしており、この問題作に関して識者の分析を読んでみたいと思っていたところだったので、早速注文した次第。