カーペンター氏への追悼文

去年、Tolkien Studies という、アメリカのトールキン学者が寄り集って作られた年会誌(というか、研究誌)が発刊された。今までトールキン協会や Mythopoeic Society が発行する機関誌はあったが、こういうトールキンの名を冠した専門の研究誌はなかったはずで、このような専門誌が出ること自体、映画化以降、トールキン研究熱もまた飛躍的に高まっている証拠なのだろう。長らく絶版や品切れで手に入りにくかった関連書籍も復刊されたりして喜ばしい限りである。
ところがこの研究本、日本のアマゾンで6889円という法外な値段なので、さすがに買うのは二の足を踏んでいた。内容紹介のページを見ると、編集顧問にFlieger教授や「詳注ホビット」のダグラス・アンダーソン氏らが関わっており、そそられる見出しの論文もちらほらあるが、かなり硬派な内容っぽい。大学の図書館などが購入したものを読める立場だったら借りて読むところだが、それもかなわないし・・この手の専門誌は一度買いそびれると後でやっぱり欲しくなっても手に入れるのは大変かも・・とかグジグジ悩むこと数ヶ月、ある晩魔がさしたときがあって、気づいたら一号を買っていた・・
で、内容なのだけれど・・大学で英文学でも専攻しているならともかく、私のようなアマチュアのファンにはチト敷居が高いですかね(笑。数編の論文を苦労しながら読んで、それなりに蒙を啓かれた気がしたが、それがどんなことだったか何も覚えていないという状態。
今年になって2号が出たのは知っていたが、たかが研究本にこの値段はさすがに高いだろと恨めしく思いつつ、このシリーズに手を出すのはやめようと思っていた。が、先日やはり魔がさして・・・

そういうわけで、今2号が手元にあるのだが、これが1号よりもはるかに充実している内容だった(総ページ数も前号より100ページ以上増えている)。とりわけ1号にはなかったトールキン関連本の書評欄が非常に充実していて、読み応えじゅうぶん。これから読んでみたい関連本も数冊見つかり、大いに参考になった。各論文はまだ手をつけていないので何か発見があればまたその時にでも書くとして、まずダグラス・アンダーソン氏によるハンフリー・カーペンター追悼文に感銘を受けたので、それを書いておきたいと思う。

私はネット上の掲示板でカーペンター氏が亡くなったことを知り、「え?そんな歳だったっけ?」とは思ったものの、それ以上調べることはせず、59歳という若さだったとは今回の追悼文で初めて知った。近年はパーキンソン氏病をわずらい、健康状態が悪化しており、心不全で亡くなったという。
以前のブログで触れたように、トールキン家公認の伝記作者であり、インクリングスに関する本も出し、トールキン書簡集の編集までしていたカーペンター氏がその後のトールキン・シーンから姿を消し、たまに見かけるコメントといえばいつもトールキンとそのファンにたいする当てこすりや皮肉交じりの中傷という感じで、トールキンシンパは一種裏切られた気分で「カーペンターよ、お前もか」と皮肉の一つも言ってやりたくなったわけだが、氏はトールキン関連の著作であのようないい仕事を残しているのだから、ファンからすればリスペクトの対象になりうるはずだのに、なぜファンの神経をわざわざ逆撫でするような、天邪鬼なコメントをするのかしらんと不思議にも思っていた。アメリカのトールキンに対するカルト的熱狂ぶりに対して、氏のイギリス人的なアイロニー感覚がああいうへそ曲りなコメントを言わせるのだろうかというふうに思ったりもしたが、それにしてもよくわからん人だなあと・・。
それが今回アンダーソン氏の書く追悼文を読んで、長年のひっかりりが氷解したように思う。(つづく)

J.R.R.トールキン―或る伝記

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インクリングズ---ルイス、トールキン、ウィリアムズとその友人たち

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