LOTR 50th ANNIVERSARY EDITION (1)

「・・・私が子どもだった時分、大学出版局から出ている欽定訳聖書の誤植を見つけた者には誰にでも5ポンドが支払われると言われたのを覚えている。(おそらくは私の宗教的な知識を増やすためのエサだったのかもしれない)。この報酬をもらった人がじっさいにいたのかどうか私は知らない。しかし私はよく、LotRの出版から3世紀を経た時代になって、そういった報酬が進呈されているさまを想像する。LotRタイポグラフィカルな完璧を期すには少なくともそれくらいの長い期間が必要とされるだろう」(J.R,R.Tolkien Discriptive Bibliography レイナー・アンウィンの序文より)

タイポグラフィカルな完璧性。それはもちろんLotRに限らず、世のすべての名作が出版される理想の形だろうけれども、聖書の一字一句と同じように吟味され、トールキンの意図したものに限りなく近づいた決定版を作ろうとする情熱は、LotRが言語・言葉というものの審美性にこだわった作品であるということに留まらず、LotRがとりわけタイポグラフィカルな快楽(?)に満ちた作品でもあるということもあるのではないだろうか。

これは大して英語の本を読んでいない私に限ってのことなのかどうか、ちょっと判断しにくいのだが、私の場合、LotRを原語で読んで受けた感銘の一つに、このタイポグラフィカルな快感というものが大きかった気がする。エルフ文字の魔術的雰囲気はもとより、たとえば west や shadow など、それ自体変哲もない単語がthe West、the Shadow という大文字になったとたん、独特の存在感を持って地の文から浮き出し、目に突き刺さってくるような面白さみたいなものがあり、もちろんそれらの単語に含まされたイメージもあってのことだが、それとは別に、こういうアルファベット表記自体の持つビジュアル的な要素がとても新鮮に感じられた。今回のこの新版を準備するにあたって、誤植や誤記の修整のほかに、こういったトールキン独特の大文字の使用法やイタリックの使い方を可能な限り忠実に再現しようとしたそうだが、それはやはりトールキンが活字というものを極めて細心かつ効果的に使っているからこそだろう。

・・・本の感想を書こうと思ったら能書きばかりになってしまった。もう少し具体的な感想はまた今度(といっても中身をちゃんと読んでないので物理的な感触の感想しか書けないのですが。)