ルイス-トールキン書簡から

The Collected Letters of C.S.Lewis Vollume 2を買った。千ページを越える大部の本で、片手に持ちながら空いた手で辞書を引き引き読むにはかなり辛い。ルイスの書簡集はすでにルイスの兄編集による書簡集、少年時からの親友アーサー・グリーヴズ宛て書簡集、子ども達への手紙を集めたもの(ナルニアに関する子どもからの質問に答えたりしてます)、個人的な文通を続けていたアメリカの一婦人への書簡集などがすでに出ていたが、今回のこれは編年体による書簡集で、今まで未刊であった多くの手紙も網羅された画期的なもののようである。全三巻の刊行予定で、現時点では第二巻まで刊行されているが、なんといっても興味を引くのはルイスとトールキンの交流が始まり、インクリングス活動の全盛期あたりなので、私はためらわずこの第ニ巻を買った。
さて、まずはルイスがトールキンに書いた手紙から…と索引を調べてみて脱力。索引中にトールキンの名前は頻出しているものの、ルイスが直接トールキンに宛てて書いた手紙はたったの一通のみ。しかも読んでみたらその手紙はすでにカーペンターのトールキン伝に引用されているものだった。(邦訳伝記p241〜242)トールキンが完成したLotRの原稿をルイスに送り、ルイスがトールキンへ賛辞と感想を書いた手紙である。

さて、気を取り直して件の手紙を読み直していると、読んだ覚えのない部分があった。不思議に思って件の手紙の部分をカーペンターの伝記と照らし合わせてみると、カーペンターが引用してるのは手紙の全文ではなく、中間の部分は特にそれと明記されずにそっくり省略されていることに気づいた。この省略部分、短いので、ここに訳出してみたい。

「…だから深い憂愁の印象を最後に残す。(省略部分はこの後から始まっている)
あきらかにこの印象は作品の大部分が最初に朗読されるのを聞いたさいの状況によって強められている。あのときは我々の周りを大いなる危険が取り巻いていたからね。といっても私の中では、なんにせよ今よりずっと幸福な気分の時代だったけれど。しかしそういったことは作品にたいするトータルの印象の一部分しか説明していない。この作品がそれ自体偉大かつハードで苦い作品であることは確かだ。私はこの作品を好んではいても、ある種の戦きなくして再びページを開くことはないだろう。これは「アエネーイス」と共に、私が言うところの「即時に、準宗教的な位置を獲得する本」の一冊としてランクされることになるだろう。
じっさい(予期せぬ結果として)君の北方趣味に関わらず、この作品は何よりも全般的な雰囲気が「アエネーイス」に似ているように私には思われる。
これは次のようなことに起因していると思う。

a、両作品ともきわめて森林的である。
b、ストラテジー=戦略が描かれている。それは単なるコンバット=戦闘とは別物である。
c、アクションの背景に膨大な過去が存在していることを示唆している点。

頭韻詩はすべて気に入った。

もちろん言うことはこれで全部ではない。…(以下略)」

この後は伝記に引用されている部分がまた続き、最後にまた数行の省略部分が来る。

「おめでとう、君がこのために費やした長い年月はすべて正当化される。
モリスとエディスンは、彼らが比肩しうるものとしてだが、今や”先駆者”になり下がった。
”世界地図”に関してだが、君が警告してるように、今はまだ正確じゃないんだね。しかしそれとはまた別の点でだが、-君はホビット庄があんなに大きいって本気で考えてるのかい?
君に会えなくてとてもさびしい。

ジャック・ルイス」

LotRと「アエネーイス」の類似性には他のところでも何度か指摘されるのを読んだことがあり、私も岩波文庫版を取り寄せて読み始めたのだが、今のところ数ページ読むと寝てしまう状態。
それとは別に阿刀田高「新トロイア物語」が「アエネーイス」の翻案だと知り、早速読んでみた。こちらは異常にスラスラ読め、神話的な物語の骨太な面白さを感じはしたが、阿刀田版ではルイスが言うようなLoTRとの親和性は残念ながらよくわからなかった。

(上の引用では省略した、邦訳伝記のp242のラテン語の引用句はこの書簡集の編者であるフーパーの脚注によれば出典はホラチウスで、意味は「一つの詩句の中に多くの光るものがあれば、多少の欠点は気にならない」とある。私はラテン語はわからないので確かなことは言えないが、フーパーの英訳のほうが文脈には添っていると思った)

The Collected Letters of C.S. Lewis, Volume 2

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The Collected Letters of C.S. Lewis, Volume 3: Narnia, Cambridge, and Joy, 1950 - 1963

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The Collected Letters of C.S. Lewis, Volume 1: Family Letters, 1905-1931

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Collected Letters of C.S. Lewis - Box Set

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Collected Letters Volume Two: Books, Broadcasts and War, 1931-1949

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