三人の「おくりびと」

アカデミー賞外国語映画賞部門に邦画の「おくりびと」がノミネートされているそうで、「おくりびと」の英語タイトルは "Departures" だとニュースでやっていた。

この映画は未見なのだが、departure という単語で連想するのは、「ボロミアの死」の章タイトルが、原語では The Departure of Boromir となっていたこと。

まだ英和中辞典しか持っていなかったときにこの単語を辞書で引き、departure: 出発、門出 という語義を見て、トールキンは章題がネタバレになるのを避けるために death という直截的表現を避けたのかなと解釈したりしていた。

今、手元にあるリーダーズで departure を引いてみると、語義の最後にちゃんと、(古)死去 と書いてあり、古い用法では、死の意味でも使われる言葉であったようで、いずれにしても、death という単語を使うよりも直接的なネタバレにならず、かつその死の表現としては古めかしい用法が、LotRという古代的世界の死の表現としてもふさわしいという、一石二鳥の言葉のように思える。

しかし遺体を棺に収める”納棺師”という職業を扱っているという「おくりびと」という映画のタイトルが Departures と英訳されているのを見て、The Departure of Boromir という章題は、ボロミアの死という事件だけではなく、小船に乗せたボロミアの亡骸に、割れた角笛と兜や剣をたむけ、アンドゥインに流すという、一種の野辺送りの儀式というか、ボロミアの葬送をも暗示した、いやむしろ departure という単語の主眼は「死」ではなく、三人のおくりびとによる「葬送」にこそあったのではないかと思ったりした。