The History of the Hobbit: Mr Baggins

とりあえず最初の数章を読んでの個人的な発見をいくつか。

・1960年にトールキンLotRの文体でホビットの冒険を書き直そうとし、途中で放棄したものの、その試みの最初の数章が存在するらしいこと。これは瀬田訳の「ですます調」を「である調」に書き直そうとしたような違いとして現れるのかどうか、どんなふうに雰囲気が変わっているのか興味をそそられる。このバージョンは下巻に収録される予定らしい。(これには今まで未公開だったビルボの詳しい旅程という付録もつく由。)

・トーリンの発音に関して。トーリンの名前の由来である北欧神話に準拠すればトーリンだが、英語発音だと山本訳のソーリンになる。私を含め、多くの読者は瀬田訳のトーリンをデフォルトにしていると思うが、本書によると「ホビットの冒険」の朗読をしてもらっていたトールキン家の子供たちは、そのパロディバージョンを作るという遊びをしていたらしく、ガンダルフをスキャンダルフ、トーリンを Throw-in という変名にしてパロっていたと言う。スローインという語感の元になった名前は、トーリンよりもソーリンのほうがより自然な連想で、トールキン自身はソーリンに近い発音をしていたのではないかと思ったりする。

・ベインズ版中つ国地図、トールキンは地図の上下に描かれた旅の仲間と敵の軍団の絵は気に入っていなかったようだ。ベインズ版ゴクリも「ミシュランのタイヤマンみたい」と言って斥けたという。ということはわれらが寺島ゴクリにもほぼ同じ評価が下っていたのかもしれない。トールキンはこの地図を、ジョイ・ヒルに進呈するために額装にするさい、上下の絵は切り落とした云々。

トールキン自身が描いたゴクリの絵は存在しないと思っていたが、「サンタクロースからの手紙」の1932年の絵に、スマウグとゴクリが「カメオ出演」していると指摘されている。本書にも採録された手紙の挿絵の拡大図を見ると、なるほどスマウグらしき形の壁画と、洞窟の石柱の影から目玉の大きい小さな生き物様のものが覗いており、これは今まで誰も指摘してなかった発見ではないだろうか。

・著者のJohn D. Rateliff氏をアマゾンで検索したところ、こんな本も書いておられるようでビックリした。

The History of the Hobbit: Mr Baggins v. 1

The History of the Hobbit: Mr Baggins v. 1

The History of the Hobbit: Return to Bag-End v. 2

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History of the Hobbit

History of the Hobbit

The History of the Hobbit

The History of the Hobbit