The Children of Hurin 到着。

もともとDVDの販売をしていたDeepdiscount というショップが最近本の販売も始めており、リージョン1のDVDを注文したついでに本書の注文を入れておいたのだが、早くも4/5には発送メールが来て、14日に届いた。

ハーパーコリンズ版かホートン・ミフリン版のどちらにするかで迷ったものの、今月は他にもインクリングズの研究書The Company They Keep やTolkien and Shakespeare らの高価な関連本の注文をし、さらに今後 The History of The Hobbit の刊行もひかえているので、今回は廉価なホートンミフリン版で我慢することにした。

本は思ったよりも小体な作りのハードカバーで、私が持っているトールキン作品のハードカバーのどの版型よりも小さい。近いのは農夫ジャイルズやローバーのハードカバーだが、本の背の高さはこれらよりもさらに小さく、洋書のハードカバーは全般的にでかすぎるので、これくらいの大きさが手にとって読むのにはちょうどいいかもしれない。

とりあえず冒頭のクリストファーによる序文と、イントロダクションを読む。
序文では本書刊行の動機が述べられ、トールキンがもし「シルマリルリオン」をオリジナルのコンセプト通りのかたちで完成させていたら、いわゆる"the three Great Tales of the Elder Days (すなわち べレンとルーシエン、フーリンの子供たち、ゴンドリンの陥落)の三作品は、刊行された「シルマリルの物語」の要約的文体ではない、物語的ディテールが豊かな独立した読み物(もしくは吟遊詩人によって語られるような長大な物語詩)として提出されるはずだったということに基づき、とりあえずその復元が可能であるトゥーリンの物語を、UTのような完成部分だけのつぎはぎ状ではなく、一般読者が編集上の注釈など気にせず、物語を物語として浸って読めるかたちで提出することにあったようだ。

(肝心の編集上の手続きに関しては、巻末にThe Composition of the Text という詳しい記述がある。それによると、ところどころの「空隙」を埋めるためにThe Annals of Beleriand などの初期稿(もしくはそれを元に書かれた「シルマリル」の文章)を使ったりしたものの、there is no element of extraneous 'invention' of any kind, however slight, in the longer text here presented ということである。)

クリストファーは本書の一番の読者として、LotRだけを読み、「シルマリル」やUTを読んでいない層を念頭に置いており、イントロダクションではLotR中に触れられている数少ない第一紀の記述を引用しつつ、トゥーリンの生きた時代がどういう時代状況であったのかを手短かに説明している。「シルマリル」を未読の読者がこの背景説明でどこまで理解できるのかやや疑問に思うけれども、LotR中のトゥーリンへの言及である、会議におけるエルロンドのフロドへの台詞、

「しかし、あなたがこれを自分の意志で引き受けるのなら、わたしはあなたの選択は正しいといおう。そして、古えのエルフの友の英雄たち、ハドール、フーリン、トゥーリン、ベレン自身がみな、より集うとしたら、あなたの席はかれらの間に加えられるだろう。」

の部分や、シェロブの恐ろしさを説明するくだりの

「(シェロブの皮膚を突き通すには)たとえエルフかドワーフが刃の鋼を鍛え、ベレンかトゥーリンの手が刃を揮おうとかなわぬことでした。」

などを引用しつつ、LotRに出てくるこれらの伝説的英雄たちがただの名前だけではない、それぞれの活躍が歌に歌われるような偉業を果たした人間たちであり、彼らが生きた上古の時代とLotRの時代との膨大な時間的繋がりをクリストファーが説いているのを読むにつけ、それらをすでに知っていてもじんわりと胸が熱くなってくる。

LotR中のこれらの名前だけから、トゥーリンというのはどういう英雄だったのだろうと想像をたくましくし、「シルマリル」の創世神話を経由せずに、いきなり本書のトゥーリンの冒険譚から第一紀の神話を体験する読者も今後出てくるのかもしれない。

スターウォーズの一作目でオビワンがかつてのジェダイの騎士たちが活躍した「クローン大戦」についてちょっとだけ触れ、新シリーズでその戦争が実際に描かれるまでファンの間で様々な想像がされたらしいが、そういったPrequel という物語構造自体から来るロマンというものがある。スターウォーズの場合、一作目の段階でルーカスが前史についてどこまで具体的に考えていたのか多少眉唾なところがあるが、トールキンの場合、LotRが書かれるはるか以前からトゥーリンやゴンドリンの伝説が実在していたのだから、後付け的な辻褄合わせのストーリーや由来とは違う、真性の前史ゆえの物語の奥行きと深さが実感されるものと思う。

The Children of Hurin

The Children of Hurin

Narn I Chn Hrin: The Tale of the Children of Hrin. by J.R.R. Tolkien

Narn I Chn Hrin: The Tale of the Children of Hrin. by J.R.R. Tolkien

The Children of Hurin

The Children of Hurin

The Children of Hurin

The Children of Hurin