「君よ憤怒の河を渉れ」を見る

佐藤純彌監督の映画は「新幹線大爆破」や「北京原人」等、作り手の意図に反して、トンデモ系おバカ映画的な見方をされているようで、本作もややリアル感を欠いたクマの登場や、はなはだ緊張感を欠く劇伴音楽、「男は死に向かって飛ぶことが必要なときもあるんだ」というようなステキに臭い台詞など、随所で関節の外れたようなセンスに身もだえしながらも、今の邦画にはない類の泥臭いパワーが漲っており、2時間半の長尺にも関わらず、最後まで引き込まれて観た。とりわけ本編のハイライトであろう、もうこれ以上は逃げられないというピンチに陥った主人公(高倉健)の救出に向かうヒロイン(中野良子)の登場の仕方には、ヘルム峡谷における白の乗り手、ペレンノール野へのアラゴルンの到着にも通じる(というのはいささか大げさですが)、プチ 'sudden joyous turn 'を体験し、不覚にも感動してしまった。
新宿駅西口ロータリーという、これ以上ないほど散文的な景色の中で、突如神話的な事件を目撃する奇跡・・・あるいは完全に無機的な大都市という舞台ゆえに、馬族(?)のヒロインの一計が一種の魔法めいたものに見えたというべきか。

映画はこのシーンで終わらず、主人公の苦難はまだ続くのだが、この場面を見ていて、トールキンの云う意味でのファンタジーの機能の一つである喜び、ユーカタストロフィ的な感動は、異世界の舞台や妖精といった、いかにもファンタジー然とした設定がなくても成立可能なのだと思ったりもした。

君よ憤怒の河を渉れ [DVD]

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